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TOP >  こどもの病気 >  おたふく風邪で難聴に?

おたふく風邪で難聴に?


今回はおたふく風邪で難聴になるというお話です。おたふく風邪は正式名を流行性耳下腺炎、英語では Mumps といいます。ここでは「ムンプス」で統一します。まずはムンプスについて学んでいきましょう。

ムンプスってどんな病気?

ムンプスウイルスの飛沫によって喉から感染します。潜伏期間の2〜3週間の間にウイルスが血流により全身に運ばれ、唾液腺・中枢神経・性腺・内耳・膵臓などの様々な臓器で炎症を起こします。耳下腺が最も腫れやすいので「流行性耳下腺炎」と呼ばれますが、実際には全身の臓器で炎症を起こす病気です。3〜7才と、その親世代(20〜40代)に多くの発症者がみられます。特別な治療薬はありません。

 

感染しても無症状の人がいる

ムンプスウイルスに感染しても、約30%の人は症状が出ません。不顕性感染といいますが、症状がないのに感染力はあり、周囲にうつします。また後述するムンプス難聴にも、症状がある人と同じようになることがあります。

 

感染力が非常に強い

感染力の強さを表す「基本再生産数」は11〜14で、インフルエンザや新型コロナの数倍以上あります。幼稚園や小学校で流行があると、半分以上の児が感染してしまいます。しかも症状がない不顕性感染でも感染力があるので、耳下腺が腫れている人を避けるだけでは、感染から逃れることはできません。

 

合併症

耳下腺が腫れる以外に多くの合併症が知られていますが、後遺症を残すものと残さないものに分けて整理してみます。
後遺症なし(合併頻度 %)
無菌性髄膜炎(3〜10%)
発熱・頭痛・嘔吐で発症。髄液穿刺、輸液、入院が必要になることが多いが、後遺症を残すことなく治る。
膵炎(4%)
強い腹痛・嘔吐で発症。入院が必要なことは多いが、自然に軽快する。
重大な後遺症を残すことがある(合併頻度 %)
脳炎(0.02〜0.3%)
発熱・意識障害・けいれん・麻痺などで発症。大流行する年には、約2000人/年の発症がある。多くは完全に回復するが、後遺症として水頭症・神経麻痺を残すことがある。死亡例もあり。
流産(27%:妊娠初期の頻度)
妊娠15週ごろまでに感染すると流産の確率が高くなる。胎児に奇形を起こすことはない。
精巣炎・卵巣炎(35%、7%:思春期以降の頻度)
思春期以降に発症すると合併しやすい。性器の痛みや腫れ・下腹部痛・嘔吐などで発症。不妊症になることは稀であるが、両側の精巣炎では精子数が減少するという報告あり。
難聴(0.1〜0.25%)
一般にはあまり知られていない合併症ですが、主に片側の聴力が失われる合併症で「ムンプス難聴」と呼ばれています。今回はこの合併症について詳しく述べていきます。

ムンプス難聴とは

ムンプス発症前後に起こる急性の難聴です。成人ではめまい・嘔吐・耳鳴りを伴うこともありますが、小児では難聴だけのことが多いといわれています。ムンプス自体の症状の重さとは関係なく、軽症でも不顕性感染(症状がないムンプス)でも難聴になることがあります。

 

特徴

  1. 片側が多い(95%)が、両側の難聴もある。
  2. 難聴は高度で、ほぼ完全失聴まで進行する。
  3. 治療法がなく、聴力は生涯回復しない。

 

なぜムンプスで難聴になるのか?

メカニズムはまだ解明されていませんが、血液中のウイルスが内耳に侵入、そこで炎症を起こして「蝸牛」という、音を電気信号に変えて脳に送っている器官が障害されるため難聴になるという説が有力です。内耳には平衡感覚を司る器官(前庭・三半規管)もあるため、そこに炎症が及ぶと、めまいや吐き気もみられます。

 

子どもがムンプスになったけど平気そうだから大丈夫?

片側の難聴が多いことが落とし穴になります。幼児は片耳が聞こえなくなっても、ほとんど気が付きません。たまたま電話に出て受話器の音が聞こえないことで気付かれたり、小学校の就学時健診で発見される例もあります。自覚症状がなくても大丈夫とはいえません。

 

検査・診断

耳下腺が腫れてから18日以内に聴力検査で高度の難聴がみつかれば、ムンプス難聴と診断されます。ムンプスに罹ってから長期間経過している場合や、ムンプスの症状がなく難聴になった場合には、因果関係がはっきりしないので、突発性難聴と診断されることもあります。片側難聴の場合は自覚症状がないことが多いので、本当はムンプス難聴であっても診断されていない例がかなりあるといわれています。(突発性難聴の5〜7%がムンプス難聴だったという報告も)

 

治療

有効性が証明されている治療はありません。ムンプス難聴と診断された時点で、治療されないこともあります。診断時に軽症〜中等症の難聴の場合には、ガンマグロブリンやステロイドで改善したという報告も(数は少ないですが)あるので治療が行われることもありますが、ほとんどの症例では治療によって改善することはなく、ほぼ完全失聴まで進行します。発症してから進行を止めることは難しいので、ムンプスに罹らないようにすることが一番大切です。

 

頻度

これまでの教科書には、ムンプスで難聴になるのは2万人に1人と記載されていました。しかし、実際にムンプス患者を詳しく追跡した研究はなく、本当の頻度はわかっていませんでした。近年になって日本で大規模な調査が行われて、本当の頻度が明らかになりました。それを受けて行われた全国大規模調査と合わせて紹介します。
2007年 近畿小児科学研究グループ

40の医療機関で3年間に受診した20才以下のムンプス患者7400人を、2週間毎日自宅で聴力チェックを行い、難聴の発生率を調べた。7人の難聴が確認された。
ポイント
・発生率は1/1000
・年令は3〜7才
・全員が片側の難聴、高度難聴で回復しなかった。
・全員ワクチンを接種していなかった。
・ムンプスとしては全員軽症、2例に嘔吐・めまい。
・自覚症状のない児が多く、7例中2例は2週間の調査期間中には発見されず、後日偶然診断されている。自宅で発見することの難しさも明らかとなった。
2015-2016年 日本耳鼻咽喉科学会の全国調査

全国の耳鼻咽喉科医療機関にて、2015-2016年の2年間でムンプス難聴と診断された患者(成人含む)を調査した。359例の報告があった。95.5%が片耳難聴で、高度・重度だった。4.5%は両側の難聴だった。小児と30代に多かった。家庭内で子どもから感染した親が難聴になる例もあった。
ポイント
・2年間で359人のムンプス難聴が確認された。
・親世代にも難聴が発生していた。
・20人に1人は両側の難聴だった。
・90%が高度以上難聴だった。
・有効な治療はなかった。
・1/4は耳下腺腫脹がなかった。

 

推定年間発症数

日本の年間ムンプス罹患者数は、約40〜100万人(コロナ前)なので、毎年 400〜1000人の難聴が発生していると推定されます。不顕性感染から難聴になるとムンプス難聴と診断されないことがあるので、実際にはもっと多いかもしれません。

 

実際に難聴になった小児例の経過

3才 男児
通園中の保育園でムンプスの流行あり。某年10月21日夜より発熱、左耳下腺部痛を訴え、翌日近医でムンプスと診断された。10月26日朝より「おうちが回る」と訴えて立てなくなった。嘔吐も繰り返した。10月27日の受診時には嘔吐はなくなっていて、ふらつきは残るが歩けるようになっていた。耳下腺の腫れはほとんどなくなっていた。髄膜刺激症状が認められないことから、無菌性髄膜炎ではなく前庭症状による嘔吐と考えられた。ムンプス難聴を疑い、耳鼻科で聴力検査(聴性脳幹反応)をしたところ、左耳が無反応だった。ステロイドとビタミン剤で治療したが聴力は改善しなかった。ムンプスによる左耳の難聴と診断された。(橋本裕美:ムンプス難聴. 小児内科 40, 544-546, 2008 より)

 

片側難聴の世界

「高度難聴だけど、片側だから問題ない」という医師もいますが実情は違います。音源の方向がわからない、たくさんの音の中から聞き分けることができないなど、集団生活で困難を感じることがあります。思春期には、ちょっとしたことが聞き取れないことによって、他人から無視されたと捉えられてしまうことがあり、対人関係のストレスになったり、いじめの原因になることもあります。しかし保険適応の治療はなく、身体障害者手帳も受けられません。また成人のムンプス難聴では、耳鳴りやめまいを伴うことが多く、生活に支障をきたす例が多くみられます。そして数年から数十年後に「遅発性内リンパ水腫」という難病を発症することがあることや、残された耳の聴覚が失われることに強い不安を感じる方が多いようです。

参照:片側難聴の情報・コミュニティサイト 
きこいろ:https://kikoiro.com/category/all-about-uhl/


 

両側難聴になると

人工内耳

ムンプス難聴の約5%は両側の難聴です。今まで普通の生活をしていた子どもや大人が、急に何も聴こえなくなってしまいます。2015〜2016年の調査でも15人の両側難聴例が確認されました。ムンプス難聴は重度が多いので、補聴器では十分に補填できず、多くは人工内耳手術が必要になります。しかし手術をしても聴覚が正常になるわけではないので、電気信号を音として認識するトレーニングが必要です。また小学校低学年以下の子どもの場合、それまでに獲得していた言語を失ってしまうので、直ちに言語訓練が必要になります。

 

どうすればムンプス難聴にならないの?

ムンプスに感染してから難聴になるのを防ぐ方法はありませんので、感染自体を予防するしかありません。しかし感染力が非常に強く、症状がないのにウイルスを排出する不顕性感染もあるので、集団生活(保育園、幼稚園、学校)を送りながらウイルスを完全に避けることはできません。ワクチンだけが唯一有効な難聴の予防法です。
家庭内感染が多い感染症ですので、子どもたちがワクチンを接種することで、親世代の感染も防ぐことができます。またワクチンを接種した子どもたちが増えていくと、日本全体の流行を抑えることになり、ワクチンを接種していない(接種できない)人たちも感染から守ることができます。

 

ムンプスワクチン

1才以降であれば、年齢に関係なく接種できます。罹ったことがあっても問題ありません。卵・ゼラチンアレルギーがある方でも接種できます。推奨接種年令は、1回目が1才、2回目は5〜6才です。必ず2回接種しましょう。副反応は年齢が小さいほど軽いので、初回接種は「1才を過ぎたら早めに接種」することが勧められています。ただし生ワクチンなので、妊娠中・重度の免疫不全がある方・免疫を抑制する薬剤を使用中の方は接種できませんのでご注意下さい。

 

ワクチンの効果

発症予防効果は92〜100%と、非常に効果が高いワクチンです。ワクチン接種後にムンプスに感染しても、発症しないか軽症で済みます。難聴を含めた合併症のリスクも大幅に減ります。2007年の調査でも、難聴例は全例ワクチン未接種でした。

 

ワクチンに副反応はないの?

安全性の高いワクチンですが、生ワクチンですので、ある程度の確率で副反応が生じます。頻度の高いものから見ていきます。
耳下腺腫脹:1〜3%
生ワクチンは「軽く」その感染症に罹ることで免疫を獲得するしくみなので、ムンプスの主症状である耳下腺腫脹が、接種の2〜3週間後に見られることがありますが自然に治ります。
無菌性髄膜炎:約2000接種に1人
1989年に導入されたMMRワクチンは、無菌性髄膜炎の発症が想定よりも多かったため、1993年に中止になりました。現在使用されているワクチンによる髄膜炎の頻度は約2000接種に1人で、自然感染(80人に1人)に比べて十分に低いといえます。また無菌性髄膜炎というと重大な病気と思われるかもしれませんが、ムンプス髄膜炎は後遺症が残ることがほとんどない予後良好な合併症ですので、そこまで恐れるべき副反応ではないと思います。
難聴:100〜200万接種に1人
これまで日本で確認されているのは3例のみです。出荷数から推測した発生率は100〜200万接種に1人です。自然感染による難聴は1000人に1人ですので、ワクチンの方がはるかに安全です。
脳炎、精巣炎、卵巣炎:極めて稀です。

 

世界の現状

非常に効果が高く安全なワクチンですので、WHOは2回接種を推奨しています。欧州・南北アメリカ大陸では100%、全世界でも約60%の国で接種が義務づけられています。先進国で定期接種になっていないのは日本だけで、欧米ではすでに過去の病気となりつつあります。

 

日本の状況

ムンプス患者数の推移

日本では2016年に最後の大きな流行がありました。再流行が予測された時期と新型コロナの流行が重なり、すべての感染症が激減したため、現在は落ち着いています。

ワクチン接種率が80%以上あれば再流行は防げるのですが、現在は上昇傾向にあるものの、40〜60%とまだ十分ではありませんし、流行がなかったことによって免疫を獲得しなかった児も増えているので再流行の可能性があります。
なぜ先進国のなかで日本だけ取り残されてしまったのでしょうか。1989年に導入されたMMRワクチンの失敗もありますが、保護者を含めて世間からの定期接種化を望む声が大きくないことも要因としてあげられます。一般の親御さんたちはムンプスという病気をどう捉えているのでしょうか。

 

保護者の誤解

一部の親御さんたちの間で広がっている噂を検証してみます。
予防接種が任意なのは、国が推奨していないから
→1989年にMMRが定期接種として導入されましたが、副反応が問題となったため中止になりました。より副反応の少ないワクチンを現在開発中です。いずれ定期接種として再開される見込みです。国も日本小児科学会も接種を推奨しています。
15才を過ぎてから感染すると精巣炎で不妊になるので、軽くすむ子どものうちに罹る方がいい
→精巣炎から不妊になることは実際には非常にまれですが、思春期以降に感染する方が重症になるというのは本当です。しかし、小さいうちに感染しても合併症がないわけではなく、特に難聴はある程度の頻度で発生するので、ワクチンで予防して感染自体を防ぐ方が得策です。
ムンプスの子が近くにいたら、接触してウイルスをもらった方がいい
→実際に行われることがありますし、そう勧めている医師もいるようです。しかしその結果、一部のお子さんには難聴などの合併症が発生し、さらに家庭に持ち込まれることで、親が感染して重症になったり、妊娠中の母親が流産してしまう事例もあります。絶対にやめましょう。
予防接種を受けるより、普通に罹った方が免疫がつきやすい。
→自然感染の方が強い免疫を獲得できるのは本当です。ワクチンの効果は5年程度で減っていくと考えられています。問題は自然感染には強い免疫を獲得するかわりに、合併症のリスクがあるということです。それが非常に小さく軽いならいいのですが、実際にはある程度の頻度で難聴になることがわかっているので、ワクチンで予防する方が安全なのです。

 

予防できると知っていたら・・

ムンプスなんて軽い病気だと思っていたのに、ある朝起きたら、子どもや自分自身の耳が聞こえなくなり、治る見込みはないと宣言される。しかもそれは、ワクチンを接種さえしていれば簡単に予防できた合併症だと知った時の衝撃はあまりにも大きく、後悔にさいなまれることになります。実際に難聴になった方の声を聞いてみたいと思います。

 

難聴になった児・家族からの手紙

近畿外来小児科学グループの調査で中心になっていた橋本裕美先生の元には、ムンプス難聴になったお子さんの保護者の方から、たくさんのメールが届きました。その中の1通をご紹介します。

「Aくん 5歳でムンプス難聴 保護者より」
検索でこの調査を知りましたので、メールすることにしました。
現在、11歳の小学6年生の男子ですが、6歳になる年の夏に「おたふく風邪」にかかり、
難聴になってしまいました。(右耳は当初スケールアウトと診断されました左は正常です。)
感染してからすぐに、主人の同僚の方がやはり6歳くらいの時にかかり、難聴になってしまった話を聞いてきました。
それまで、おたふく風邪で難聴になってしまうなんて、小児科でも予防接種の紙でも
全く知ることはありませんでした。まさか、自分の子がそうなってしまうなんて夢にもその時は思わず、主人と「怖いね。」と話したことを覚えています。
おたふく風邪の症状が消えて、1週間くらいたったくらいに子供が「耳がへん」というので
そのとうり、耳鼻科に連れて行きました。そこで私は「この間、おたふくにかかったんですが」
と言ったのですが、その医師は無反応でした。さらに1週間後、まだ「おかしい」という子を連れて又、同じ医院に行ったのですが、前と全く同じ中耳炎の診断。
主人も私もこれは変だと思い、受付時間の過ぎた市民病院へ連れて行きそこで聴力検査を行いそう診断されました。市民病院で出されたのはステロイド錠を1−2週間分、効果なく、本で知った北里大の高圧酸素療法を2週間、それでもだめで、帝京大(板橋)、埼玉医大(毛呂)
ここの医師に「世界中のどこを探してもこれを治すことはできない。」と言われてあきらめました。
それでも、やっぱり私は納得ができない。なぜ、なぜ両方でなく殆どが片方だけなのか?
何か絶対理由があるはず。
同じ時期にかかった弟はなんでもありませんでした。
知っていたら、絶対に予防接種を受けたのに。
(原文ママ)

すべての方のメールをご覧になりたい方は、以下のPDFファイルをご参照下さい。

 

もしムンプスに罹ってしまったら

耳下腺が腫れてから2週間は毎日聴力をチェックするようにしましょう。少しでも怪しいと思ったらすぐに耳鼻科受診を。経過中に嘔吐・ふらつき・めまい・耳鳴りがあるときには、特に要注意です。ムンプス中に嘔吐で受診すると、無菌性髄膜炎を最初に疑いますが、頭痛がないときには内耳の炎症による症状の可能性があるので気をつけましょう。

 

聴力を調べる方法:自宅

両側難聴の場合は、音情報がなくなるので、不安を訴え口元をずっと見続けて親から離れられなくなるので、すぐに気づくと思います。片側難聴では自覚症状もなく、会話もできるので見つけるのは簡単ではありませんが、以下簡単な方法を3つ紹介します。

後ろから小さい音でチェック

  1. 静かな部屋で、子どもが何かに気をとられている時に、左右別々に後ろからそっと音を聞かせ、振り向くかどうかを試します。小さな短かい音(1回)で、気配がわからないようにしましょう。左右の振り向き方が違うかどうかをみます。
  2. 携帯電話を左右の耳にあてて、親が話す小さな声の指示が伝わるかどうか確かめる。
  3. 耳元で指を擦り合わせて、どちら側で音がしたかを答えさせる。

電話を耳に当ててチェック

2007年の調査では、自宅で毎日チェックしていても発見できなかった症例がありました。自宅でのチェックには限界がありますので、医療機関で検査を受ける方法もあります。

 

聴力を調べる方法:医療機関

オーディオメーター

オーディオメーター:ヘッドホンから周波数ごとに音が聞こえたらボタンを押して測定します。簡便な機械ですが、こどもは検者の「これは聞こえるか」といった誘導や手の動きを見てボタンを押したり、ときには故意に自分の異常を悟られないためにボタンを押すことがあり、難聴を見逃すことがあるので注意が必要です。
耳音響反射(OAE):入力された音に対する内耳(蝸牛)の振動を検知する機械です。本人の意志とは関係なく測定できるので、小さい子どもでも検査できます。ただし、耳垢や中耳炎、音の通り道に問題があると難聴がなくても異常値になります。また、難聴の重症度は評価できません。
聴性脳幹反応(ABR):入力した音に対して、内耳〜脳で発生した電気信号を脳波計で読み取るしくみです。安静にするために乳幼児では薬で眠らせることもありますが、新生児にも施行できる精度の高い聴力検査です。

 

コロナ後の世界

コロナの流行によって世界の感染症の状況は一変しました。ムンプスを含めた多くの感染症がほとんど姿を消してしまったのです。人の移動を制限したり、マスクや手洗いを徹底した結果でしょう。感染症が減ることは一時的にはいいことですが、免疫を獲得する人が減ってしまうことも忘れてはいけません。コロナが終息すれば、ムンプスは再流行すると思いますが、その時にはこれまでにないほどの大きな流行になって、多くの方がムンプス難聴になってしまうかもしれません。ムンプスが落ち着いている今のうちに、是非ワクチンを接種してコロナ後に備えておきましょう。小児科医としては、一日も早くムンプスワクチンが定期接種となり、ムンプス難聴が過去の病気になる日が来て欲しいと思います。

 

参考文献

橋本裕美
「ムンプス難聴発生頻度の真実―近畿外来小児科学研究グループによる調査報告」2007
「ワクチンによる難聴の発生について教えてください」小児内科 2007
「難治性のムンプス難聴をこれ以上放置すべきではない」日小医会報 2008
「小児科医からみたムンプス難聴について」国立感染症研究所 IASR 2013
日本耳鼻咽喉科学会
「2015-2016年にかけて発症したムンプス難聴の大規模全国調査」 2017
庵原俊昭
「ムンプスワクチン - 定期接種化への流れ」臨床とウイルス 2014
「おたふくかぜワクチンの効果と副反応 - 2回接種の必要性」日小医会報 2015
伊藤健太
「ワクチン各論14)流行性耳下腺炎(ムンプス;おたふくかぜ)小児科臨床 2020