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TOP >  こどもの病気 >  先天性股関節脱臼

先天性股関節脱臼


どんな病気?

赤ちゃんの股関節が脱臼する病気です。股関節は太ももの骨の根元にある丸い部分(骨頭)が、骨盤の丸く凹んだ部分(臼蓋)にきっちりハマることで自由に動かせる仕組みになっています。

臼蓋の凹みが浅いと骨頭が外れやすくなります(臼蓋形成不全)。そして外れかかっている状態(亜脱臼)から、完全に外れた状態(完全脱臼)へと進行していきます。

 

どうして脱臼するの?

脱臼しやすい股関節で生まれてきた児が、間違った方法で育てられることによって、徐々に脱臼が進行します。出生時に脱臼していることは少ないので、最近は「先天性股関節脱臼」ではなく「発育性股関節形成不全」と呼ばれています。

 

脱臼しやすい児とは?(リスク因子)

 女児:男児の5〜9倍、関節が柔らかいため。
家族歴:親・兄弟に股関節の病気がある。
 逆子:脚を伸ばして出生する「単殿位」に多い。
冬出生:寒いので厚い服で足を固定されるため。
★リスク因子のある児は、そうでない児と比べると、同じ環境で育てられても脱臼の発生率が高くなります。

 

間違った育て方とは(環境因子)

① 股・膝関節を強く伸ばして筋肉を緊張させる。
② 股関節を固定して自由に動けなくする。

この2つがあてはまるような育て方をすると脱臼しやすくなります。単殿位の逆子に脱臼が多いのは①が原因です。おむつの種類や付け方、服の選び方、抱っこのしかた、向き癖への対処などが重要です。詳しくは「脱臼しない育て方」をご参照下さい。

 

発生率

日本には巻おむつなどで脚を伸ばして固定する習慣があったため、以前は約10%(10人に1人)の児が脱臼していました。しかし1970年代の予防運動により激減しました(グラフ参照)。自然に脚を曲げた状態にすること(睡眠時)、下肢の自由な運動を妨げないこと(覚醒時)、この2つを徹底することで、ほとんどの脱臼は予防できることが証明されたのです。現在の発生率は0.3%(1000人に3人)です。


 

症状

外傷による脱臼と違って、脚の痛みや動かしにくさを訴えることはありません。歩き始める時期が遅れることも稀なので、脱臼していても気付かれないことがあります。赤ちゃんの頃に脱臼を疑う症状としては、立て膝(特に向き癖の反対側)、股関節が開きにくい、しわの左右差などがあります。歩き始めてからは姿勢や歩き方の異常で発見されます。詳しくは「自宅でできる股関節チェック」をご参照下さい。

 

診断

日本では、乳児健診で小児科医が開排制限などの所見から脱臼を疑い、整形外科に紹介されて、そこで画像検査を行って診断されるのが一般的です。出生した児全員に対して、1ヶ月健診の時に超音波検査を行っている病院もあります。いずれにしても確定診断には画像検査が必要です。

 

画像検査

脱臼を診断するための画像検査法には、超音波とレントゲンがあります。超音波は「軟骨」、レントゲンは「骨」を見るのが得意です。赤ちゃんの股関節は4ヶ月ごろまでは軟骨でできているため超音波検査、6ヶ月を過ぎた頃からは骨に変わってくるため、レントゲン検査が診断に適しています。

超音波検査

この病気は早く発見するほど治しやすいので、まだ軟骨でできている股関節でも診断できる超音波検査が主役です。しかし日本では訓練を受けた医師が少ないため、限られた医療機関でしか行われていません。当科では4ヶ月健診に来られた児全員に超音波検査を行っています。

レントゲン


 

治療

診断された時期により治療が異なり、遅くなるほど治療期間が長く、負担も大きくなります。
2ヶ月まで:おむつや抱き方指導のみ
3〜7ヶ月リーメンビューゲルという装具。
12週間の外来治療、整復率70〜80%

リーメンビューゲル

1〜3才牽引治療(OHT法など)
入院して牽引(3〜6週間) 〜外来でギプス (6〜8ヶ月)、整復率97%、変形が残った場合には後に手術が必要になることも多い。
4才以降手術(観血的整復術など)
★このように診断が遅くなると治療も難しくなるので、生後4ヶ月までには発見したい疾患です。

牽引治療


 

1才以降に発見される脱臼が急増している

平成23〜25年に日本小児整形外科学会が行った調査の結果は衝撃的でした。2年間の全脱臼症例1295人中、199人(15%)が1才以降に診断されていたのです。しかもほとんどの児が、乳児健診をきちんと受けていました。

右股関節の完全脱臼

15%という遅診断率は諸外国と比べても桁違いに高い数字(英国 0.03%、ノルウェー 0.3%)です。健診を受けても発見されず、歩行開始後に診断されて、牽引・手術で治療されている児が毎年100人もいるという事実は、今の日本のやり方に問題があることを示しています。

 

日本の問題点

欧米では出生直後から何回も脱臼をチェックする健診があり、超音波検査も広く普及しているので、歩き始めるまで見逃されることはほとんどありません。日本では3〜4ヶ月健診が早期発見のほぼ唯一の機会となっています。また、早期発見には必須といえる超音波検査を行っている医師が非常に少ないことも影響しています。これらの要因によって、実に脱臼の6人に1人が歩行開始後に発見されるという状況になっています。

 

自宅でできる股関節チェック

脱臼しているかどうか、自宅で簡単にチェックする方法をご紹介します。赤ちゃんは裸で仰向けにして、泣いていない自然な状態で観察しましょう。脚の位置・開き・長さ、皮膚のシワを見ます。歩行後のお子さんは、立った時の姿勢・歩き方を見ます。
★動画で見たい方は、以下のYoutube動画が参考になると思います。
シルミルマモル「早期発見!先天性股関節脱臼(2017)」
以下、挿入しているイラストも許可を得てこの動画から使用しています。

① 脚の位置
リラックスした状態では、M字に開いているのが正常です。片方が常に立て膝になっている時は要注意です。特に向き癖の反対側が立て膝になっている時は脱臼の可能性があります。

② 脚の開き(開排制限)
股関節の開きにくさ(開排制限)を調べます。両膝を合わせた状態からゆっくり開いていきます。女児 80度、男児 70度以上開くのが正常です。開きが悪いときには脱臼の可能性があります。女児は関節が柔らかいので脱臼があっても開排制限がないこともあります。

③ 脚の長さ(下肢長差)
脱臼した側の脚が少し短くなるのを利用した方法です。仰向けで脚を立て、足底を平らに並べて、かかとをお尻にくっつけます。その時の膝の高さを比べます。差があれば低い方に脱臼の疑いがあります。軽い脱臼ではわからない場合がありますが、差があれば強く脱臼を疑う所見です。ただし、左右差をみる検査なので、両側の脱臼はこの方法ではわかりません。

④ そけい部のしわ
脱臼側のそけい部のしわが深くなることがあります。その場合、脱臼の可能性はありますが、正常でもみられることがあるので、開排制限や下肢長差など、他の所見も合わせてみられるときに検査の対象となります。太もものしわの左右差は正常でもよくあるので、それだけでは検査の対象にはなりません。

⑤ 姿勢/歩行の異常
歩き始めてからは、姿勢と歩き方をみます。
姿勢
片足立ちで骨盤の位置をみる
片足でまっすぐ立ちます。正常であれば骨盤は水平ですが、脱臼があると骨盤の筋力低下により、反対側の腰が下がります(イラスト参照)。
右の脱臼なら左が下がり、両側の脱臼なら左右の立っている足の反対側の腰が下がります。

腰とお尻を横からみる
両側に脱臼がある場合、大腿骨頭が後方に脱臼するため、骨盤が前に傾いてしまいます。それを代償するために腰椎が弓なりになる(腰椎過前弯)ので、腰の部分が深く凹み、お尻が出っ張ります。

歩き方
片側の脱臼
臀部筋力低下により反対側の骨盤が下がる+脚長の左右差により、特徴的な歩き方になります。
 墜下性歩行、伸び上がり歩行など
 以下のYoutube動画をご参照下さい。
  1才 左脱臼
  1才 右脱臼
  2才 右脱臼
  2才 左脱臼

両側の脱臼
脚長差はないのですが、両側臀部筋力低下によって独特の歩き方になります。
 アヒル歩行
 以下のYoutube動画をご参照下さい。
  両側の脱臼

 

脱臼しない育て方

出生直後の股関節は、臼蓋が浅くて不安定な状態です。その後、骨頭が臼蓋の中で自由に動くことで、臼蓋が深くなり脱臼しない股関節に成長します。上手に臼蓋を育てるためには、股・膝関節を軽く曲げた状態で自由に動かせるようにすること、そして無理に関節を伸ばしたり、固定して動きを制限しないことが大切です。特に出生直後〜2ヶ月までが重要だといわれています。

① おむつ
三角/巻おむつではなく股おむつを使って、脚が自由に動かせるようにしましょう。M字型に開けるようにして、伸ばされた状態で固定しないようにしましょう。股関節を開くために、二重おむつで無理やり開いて固定するのは逆効果です。

便漏れを防ぐために両サイドのテープの幅が広いものがありますが、これをきつく止めると股関節を伸ばした状態で固定されてしまうので、サイドテープの幅は狭いものを選び、きつく締めないようにしましょう。おむつ交換の時には、足先から持ち上げるのではなく、お尻の下に手を入れて持ち上げるようにしましょう。

② 服
ゆったりとしていて、股関節を曲げた姿勢をとることができるもの、脚の運動を妨げないものを選びましょう。脚が伸ばした状態で固定されるような服はやめましょう。

おひなまきは要注意

赤ちゃんが落ち着くという理由で、脚を曲げて体全体を固定する「おひなまき」は、股関節を完全に固定する方法ですので、脱臼しやすくなる可能性があります。

③ 抱っこ
正面から向かい合って抱っこすると股関節は自然にM字型になります。生まれた直後から、この「コアラ抱っこ」でしっかり股関節を開いて抱っこしましょう。正面抱き用の抱っこひもを使用するのもいいと思います。脚を閉じた状態で横向きに抱っこしないのがポイントです。

横抱きスリングは要注意

2000年頃から流行しているベビースリングは要注意です。特に横抱きのスリングでは、開脚の姿勢がとれず、両脚が伸ばした状態で固定されるので、脱臼しやすくなる可能性があります。

向き癖はしっかり治しましょう

④ 向き癖を治す
いつも顔が同じ方ばかり向いて寝る「向き癖」と脱臼には関連があります。向き癖があると、反対側の脚が立て膝になるので、股関節の動きが制限されるため脱臼しやすくなるります。脱臼は左側に多いのですが、それは右の向き癖が多いからといわれるほど、強く関連しているので、向き癖は治しておきましょう。
向き癖の反対側から話しかける、授乳を反対側からにする、向き癖側の頭から足先までをバスタオルやマットを利用して少し持ち上げるなどの方法があります。

 

気になるときは受診を

開排制限などの気になる所見がある方、女児・逆子・家族歴などのリスク因子のうち2つある方は、受診を勧めます。4ヶ月までなら当院でエコー検査が受けられます(予防接種/乳児健診の時間:予約制)。6か月以降の場合は、整形外科を受診しましょう。

 

おすすめ資料/動画

2022年3月作成